開業医アネスラボのブログ

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【クリニック経営】新規個別指導について

クリニックを新規開設すると、厚生局による個別指導が行われます。クリニック運営していく中で、最初の関門になります。私自身、最近乗り切ったのですが、準備に追われて大変だったので、その経験をまとめたいと思います。 

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新規開業に伴う個別指導とは

健康保険法第73条、国民健康保険法第41条および高齢者の医療の確保に関する法律第66条にその根拠があり、新規開業のクリニックは必ず経験する必要があります。管轄の厚生局まで出向いて、カルテやレセプトを開示して様々な指導を受けます。

個別指導の目的は、「保険医療機関及び保険医療療養担当規則等をさらに理解し、保険診療の質的向上及び適正化を図ること」とされています。確かに準備していく中で、普段の診療を見つめ直すきっかけにもなりますし、お国の方針と大幅に解離した診療をしていないかのチェックができるという意味では大変有意義です。

個別指導の結果、「概ね妥当」「要修正」「再指導」の3段階に分類され、再指導の場合は1年後に指導が行われます。再指導となると用意する患者リストが増えるという話も聞きますので、かなり厳しい戦いになると思います。

個別指導の流れ

個別指導は以下の流れで進みます。

  • 事前通知
  • 直前1週間に患者リスト到着
  • 個別指導当日
  • 2ヶ月後に結果通知

厚生局からまず手紙が届きます。個別指導の概要と目的、日時、場所などが書かれた手紙が入っており、「ついにうちにも来たか」と臨戦態勢となります。ちなみにこの指導は断ることはできず、あえて別紙で必ず参加する必要があるという旨の注意書きも添えられています。

個別指導の丁度1週間前になると、当日持参する書類の患者リストが届きます。どのクリニックも10名の患者がリストアップされ、その方のカルテ、検査データ、画像、帳簿又は日計表、領収書及び明細書(見本)などを印刷して用意する必要があります。直前1週間は書類の準備に追われます。当院はリハビリも行なっているので、リハビリカルテ、実施計画書なども合わせて持参しました。準備した具体的な内容は、準備編に譲ります。

当日は書類を持参して指定された時間に、厚生局に出向きます。私たちのときは、合計16医院が同時刻に指導を受けました。呼ばれても現れないクリニックが1院あったようでした、その後どうなったかは分かりません。

指導は、厚生局のスタッフが1名、指導員の先生が2名の合計3名で行われます。頭数で負けないぞ、と私たちも3名(院長、医事課主任スタッフ、医事課スタッフ)で参加しました笑。開設者(あるいは管理者)は必ず出席する必要があります。時間は約1時間とってありますが、クリニックによっては1時間半かかったという話も聞きます。当院は非常にスムーズに進み、だいたい40分で終了できました。

最初に厚生局から書類の不備がないかの確認がちょこっとあり、その後患者リストに沿って指導員の先生から様々な質問が飛んできます。2名の指導員の先生が交互に患者さんについての質問をしていくスタイルでした。具体的な内容は指導内容編で詳述します。指導の最後に指導員の先生方から総括があり、なんとなくの合否結果が伝えられます。指導医の先生方からは「このまま頑張って下さい」とおっしゃって頂けたのでひとまず安心しました。

2ヶ月後に正式な結果が手紙でクリニックに届いて、「概ね妥当」であれば問題ありませんが、残念ながら査定にひっかかり返戻を求められる場合は精算する必要があります。再指導の場合は、次年度に指導となるようです。

個別指導の準備

個別指導で提出を求められる書類は以下の通りです。

  • 診療録(電子カルテの場合、全て印刷)
  • 看護記録
  • リハビリテーション関係書類
  • デイケア等に係る関係書類
  • 電子カルテ運用規定
  • 検査データ
  • 画像診断フィルム(当院はデジタル化しているためCD-Rに焼いて持参。当日はそれでとくにお咎めなし)
  • 患者ごとの一部負担金徴収に係る帳簿又は患者ごとの内訳のある日計表
  • 領収書及び明細書(見本)
  • 「保険医療機関の概要」(事前に送られてくるアンケート)
  • 保険医登録票(原本を持参する、医師免許ではないので注意)

私たちはリハビリテーションを提供しているので、リハビリカルテやリハビリテーション総合実施計画書を持参しました。レントゲン照射録が必要なのではないか、という懸念があり急遽作成して持って行きました(が、必要なかったようです)。

電子カルテを使用している場合、運用規定の提出を求められます。厚生労働省よりガイドライン第5版が発表されており、そちらに沿った作成が求められます。ちなみに私はgoogle先生から引っ張り、急ごしらえで作成しました。パスワードの変更に関する記述がなく、突っ込まれました。

事前アンケートのようなものが、通知に添えられているのでそちらも記入して忘れずに持参します。レセプト点検を誰がやるのか、社員受診の場合の自己負担額はどうしているか、電子カルテのパスワード更新はどうしているか、など細かく聞かれます。

ちなみに記録が膨大になる場合、台車の利用は許可されていますが、台車を用いる際は事前連絡が必要なようです。

個別指導の指導内容

クリニックの診療内容によるとは思いますが、当院が指摘あるいは質問された内容について列記します。

  • 診療時間、診療日時、標榜科の変更について(厚生局より)
  • 電子カルテ運用規定にパスワードに関する記載がない
  • カルテの追記、削除について
  • 症候名ではなく病名をつけること
  • 検査をした場合の疑った理由、および検査結果により導かれる診断に至る記載の有無
  • 問診票の内容をカルテ反映させたのが、スタッフの名前になっているが医師の方が望ましい
  • 特定疾患療養管理料をとる場合に、細かい指導内容を記載すること(かなり具体的に記載するようにと指導されました)
  • 診療情報提供料をとる場合、宛先が必須

当院は指導1ヶ月前に診療時間、日時、標榜科を変更していました。私の認識では、地域の保健所に届け出れば問題ないと思っていましたが、開業時の情報と齟齬がある場合に突っ込まれます。指導翌日に変更届を提出しました。

電子カルテ運用規定にパスワードの項目を設けておらず、突っ込まれました。2ヶ月以内に変更する必要があることと、英数字8文字以上で設定することなどが記載されている必要があるようです。

お恥ずかしい話ですが、個別指導に合わせて電子カルテの追記、削除を行いました。自らの伝手で集めた情報では、10人中9人の開業医で追記については突っ込まれなかったと聞いていたためです。カルテを印刷すると、追記した時間がバッチリ記載されており、指導員の先生にがっちり突っ込まれました。訴訟があった場合、問題につながる可能性があり、避けるべきとのことでした。「別にそのままの記載で問題ないのに」とおっしゃって頂き、ひとまず胸を撫で下ろしました。追記、削除はせめて2-3日の間に、とのことです。

症候名ではなく、病名をつけるようにと言われました。「●●痛」などで病名がついている患者について指摘されました。「疑い病名」等も転帰を記すように指摘されました。

血液検査やレントゲン検査を行う場合、行う根拠になる所見の記載を求められます。また検査結果がカルテに載っていることと、その結果の解釈についても記録がないと突っ込まれます。幸い先輩開業医に事前に伺っていたため、追記しておきました。結果の解釈については、検査日に記載しておきます(判断料を算定しているため)。

当院は問診票をカルテ記録に残すのに、データ取り込みを行う必要があるのですが、医療的な内容を含むので医師の名前で取り込まれているのが望ましいとのことでした。

特定疾患療養管理料は、当院ではほとんど取りませんが、たまたま1名該当がありました。「減塩、運動指導した」などは記録としては不十分なようで、減塩は食塩換算で1日何グラムにしたか、運動は何メッツのものかなど記録しておくように指導されました。

診療情報提供書を作成する場合、必ず宛先を書くようにと指導されました。私たちは必ず書くようにしていたため、問題にはなりませんでした。

クリニックがあれば、その数だけ注目ポイントがあるのでしょうが、私たちのクリニックでコメントがあったのはこの辺りでした。

ちなみに神経ブロックの施行頻度、超音波検査の画像による記録(カルテ記載は必要)、捻挫症へのシーネ固定、レントゲン照射録など突っ込まれると思っていた箇所についてはスルーでした。レントゲン検査の照射録ですが、知り合いに聞いてもこの部分でもめたことはほとんどないようです。

まとめ

新規個別指導は、開業医には避けて通れないビッグイベントです。しかも準備には1週間しか時間が取れず、臨床やりながらの準備には骨が折れます。カルテの追記や削除を行うと指導員に突っ込まれますので、基本は普段の臨床から遅滞なく内容の濃いカルテ記載をしておくべきだと思います。当日欠席したり、あまりに問題のある診療内容ですと、再指導や最悪のケースでは立入り調査になる可能性もありますので注意しましょう。しかしながら、クリニックの診療を見つめ直すきっかけになるので概ね有意義であると思います。