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<開業準備編>麻酔科医が開業医になってみてわかったこと(その1)

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今日は麻酔科医である私がなぜ開業医になったのか、開業してどんな診療をしているのか、どうなっていきたいかについて書いていこうと思います。

そもそも麻酔科医って何してるの?

麻酔科医はなんの仕事をしているかといえば以下の4つに大別されます。

  1. 手術麻酔
  2. 集中治療、救急医療
  3. 緩和医療
  4. ペインクリニック

肌感覚ではほぼ8〜9割の麻酔科医は1. 手術麻酔に携わっていると思います。手術麻酔と一言でいっても、心臓血管外科麻酔や小児麻酔、産科麻酔などそれぞれの麻酔科医が得意とするサブスペシャリティーがあります。

心臓血管麻酔はそのアグレッシブさと循環のダイナミズムに私も一時期心奪われ、一生懸命に励んだ時期がありました。

手術室運営や医療安全対策など病院全体における活躍のフィールドも多くあるため、順調に出世していくことで病院経営に携わる医師もたくさんいます。

また、集中治療専門医はICU運営に必須の条件になっているため引く手数多ですし、緩和医療に対するニーズも増加しています。

そんなわけで麻酔科診療の中で、あまりやりたい人間のいない分野がペインクリニックです(ペインクリニックが有名な病院、医局ではもちろんそんなことありませんが)。実際、私の母校のペイン外来は週に3回、それも午前中のみという悲しい状態でした。

麻酔科で開業するとは

通常、麻酔科医が開業というと、麻酔のフリーランスになることを指します。フリーランス(freelance)の語源は中世ヨーロッパまで遡り、戦争のために王と金銭的に契約を結んだ傭兵団(free lancer)から来ています。つまり金銭契約で、単発の仕事をして稼ぐ業態の麻酔科のことをフリーランスと呼びます。

私自身、手術麻酔自体は嫌いというわけではなく、フリーランスでの開業を考えた時期もありました。しかし稼げば稼ぐほど給与所得として積み上がる(事業所得にはできない)ため、累進課税でどんどんお上に持っていかれてしまう体制になってしまいます。

事業所得として入ってくれば経費計上により節税するスキームは様々ありますが、フリーランスではこれが事実上できなくなっているというのが現状だと思います。

ペインクリニックの開業ももちろんありますが、都内であっても数えるほどしかないくらいにマイナーです。私はこのブルーオーシャンに目をつけたわけです。

ペインクリニックはブルーオーシャンか?

事実ペインクリニックは少ないのですが、少し考えてみればそれもそのはず、ペインクリニック自体が世間に知られていないという事実に直面しました。需要と供給のバランスがある程度保たれていたわけです。

なのでブルーオーシャンというよりは、パープルポンド*1という感じのイメージ。

すなわち他のペインクリニックと全く同様の業態で進出した場合、大勢で小さなパイを取り合う形になってしまうので、先行者優位の原則が働き弱小はつまみ出されてしまうことになるでしょう。

そこで私は思案し一つの解を出します。

「そうだ、整形内科をやろう」

整形内科とは何か?

最近だと教科書や雑誌でも「整形内科」という言葉が出てくることがあるため、整形外科や総合診療科の先生方にはご存知の方も多いかと思います。

Non-surgical orthopedicsと海外ではいうそうで、アメリカでも以前から確立された一診療分野です。

この発想の元になったのが、整形外科へ進んだ大学時代の同級生との会話で、

友人)お前がペインクリニックやるなら、うちの外来で長らく通ってる患者さんたち診てもらえたら助かるな。オペ適応もないしNSAIDs出してるだけであんまり何もしてあげられないんだよね。

という発言でした。整形外科医の先生方は手術の合間の忙しい時間の中で、大量の内科患者(お薬だけで治療している患者)を診ている現状があるんです。

これは病院勤務時代にも本当によく見かけたシーンですが、整形外科外来に大量の高齢者が列をなして何時間も待つわけです。それで疲れた体に鞭打って手術に臨む。○○外科と名がつく科で、内科が存在しないのは整形外科だけですので、現場の整形外科の先生方の苦労は想像に難くないです。

アネ)じゃあオレ整形内科になってそういう患者さんたち診ていくようにしたら、整形外科の先生たち助かるかな

友人)お、おう、そりゃ助かるんじゃないか

まさか友人もそのままそのコンセプトで開業まで突入するとは思ってなかったと思いますが、かくして整形内科クリニックの方向性が固まって行ったのです。

麻酔科医に整形内科が務まるのか

この部分は私自身一番気になるところですし、世間からの批判の声を頂くことも覚悟しています。何故なら私はきちんと整形外科に入局して整形外科学というものを学んできた人間でなく、せいぜい救急当直の時に来た外傷患者の初期対応くらいしかやってきていないからです。

そこでまず勉強から入ってみることにしました。ちょうどamazonで検索を進めてみると、おあつらえ向きの「the 整形内科」なる教科書があるではありませんか。

こちらをすぐにポチり早速読み込んでみると、なんとそこには今まで私がペインクリニック診療で診てきたような症例や診察法などがたくさん出てきたのです。

「これなら何とかできるかもしれない」

という根拠のない自信の様なものが出てきて、一層勉強し知識と経験を積んでいきました。

開業前に全国のペインクリニックを数カ所見学に行かせて頂きましたが、骨粗鬆症の治療に力を入れていらっしゃる先生や整形外科も標榜し一般整形も診療している先生もいらっしゃり私を勇気付けてくれました。

線引きの重要性

ただし調子に乗って何でもかんでも自分で対応すると患者様に絶対迷惑がかかると心に誓い、自分の中での診療対象を選別するルールを明確にしました。

  • 腰痛のred flags
  • 筋力低下や膀胱直腸障害のある脊椎疾患
  • 骨折(ごく軽微なもの以外)
  • コントロール不良な変形性関節症
  • 筋膜以深まで達する外傷

などは提携の高次医療機関の整形外科へご紹介しています。提携している整形外科の先生方には心から感謝しております。

これから整形内科をどうしていくか

アネスラボとしては現診療で大きなトラブルなく出来ているのは非常に運が良いのだなと思っています。もしかしたら表面に出てきていないだけで、実は見落としや誤診で患者様に迷惑をかけているケースもあるかもしれません。

これからも自身の診療力を伸ばしていくと同時に、外部から整形外科の先生にも診療に入ってもらう日を作りクリニックとしての診療をより正確なものにしていけたらと考えています。

そして整形内科クリニックとして、ロールモデルとなる様なシステム作り組織作りが出来たらと考えています。

そしてもっともっと整形内科が普及することで、整形外科の先生方がより手術に集中できる環境づくりが出来たらいいなと考えています。

もちろんペインクリニックは健在です

整形内科に関する話がメインになりましたが、ペインクリニック特有の各種神経ブロックや超音波を用いたfasciaリリース注射などの治療も頑張っています。

また漢方薬を診療に取り入れることで、鎮痛の質を高める努力をしています。

最近では慢性疼痛治療ガイドラインもあり、ペイン診療の質もだいぶ担保される様になってきたのはありがたいことですね。

今後は、高周波熱凝固療法やエックス線透視を使ったブロックなんかにも進出できたらいいな、と密かに画策中です。

まとめ

今回は麻酔科医が開業することについて書きました。まだ課題の多い状態ですが、これからも自己研鑽に努めていきます。

その2以降は、開業の実際的な部分について進んでいこうと思います。

*1:青と赤の中間の紫色の、規模の小さな池。筆者造語